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インクジェットプリンタの動作原理と印刷品質

(2017年02月01日)

 インクジェットプリンタは構造が簡単で安価であることから、パソコンを持つほとんどの家庭で使われています。私は長い間、赤・緑・青 の3色の組み合わせである写真画像データが、プリンタの持つ シアン・マゼンタ・イエロー・黒 の4色のインクでどのように印刷されるのか、その動作原理に興味を持っていました。
 また、印刷写真を見ても人の髪の毛一本まで、どうしてあんなにきれいに印刷できるのか、その印刷画質に関心を持ってきました。今回は今までに集めた資料とネット上の情報を元に、こんな興味深い内容を調べてみました。

<インクジェットプリンタの概要>
 インクジェットプリンタはインクを微滴化し、印刷用紙に直接に吹き付ける方式で、構造が簡単で安価であることから、主に家庭用のプリンタとして使われています。オフセット印刷が主流の印刷業界でも、印刷枚数が少ない場合は低価格にできるインクジェットプリンタが使われています。また、インクの改良により、衣服の生地に直接柄や模様を描いたり、食品に直接印字する用途もあるようです。
 このインクを吹き付ける方式として、ピエゾ方式とサーマル方式の2つがあります。ピエゾ方式はEpsonが採用しており、電圧を加えると変形するピエゾ素子(圧電素子)を用いた方式です。ピエゾ素子をインクの詰まった微細管に取り付け、このピエゾ素子に電圧を加えて変形させることでインクをノズルから吐出させます。サーマル方式はCanonが採用しており、インクを加熱して気泡を発生させて、その力でインクをノズルから噴射する方式です。
 インクジェットプリンタに使われるインクには染料系と顔料系があります。染料系のインクは紙によく浸透し、発色が鮮やかであることから写真印刷向きといわれます。顔料系のインクは耐水性・対候性に優れ、文字印刷向きといわれています。
(注)オフセット印刷
 オフセット印刷は印刷業界の主流の方式で直接紙に印刷せず、一度ゴム布(ゴムブランケット)に印刷してから紙に印刷します。大量の印刷を短時間で仕上げることが可能で、印刷部数が多ければ多いほど単価が低くなります。オフセット印刷機への入力は、インクジェットプリンタと異なりCMYKデータになります。

<インクジェットプリンタの画質を決める要素>
 下図はCanon Pixusプリンタのカタログから印刷画質に関わる部分を抜き出したものです。私はMG6230を使っていますが、この機種を例にプリンタの持つ画質性能について考えてみます。

 まず、「解像度(dpi)」の9600×2400の意味です。ここでいう解像度とはインクの種類ごとに持つノズルの吹き出し密度です。9600dpi は横方向(プリンタのノズルが動く方向)の解像度で、2400dpi は縦方向(紙が動く方向)の解像度です。
 インクジェットプリンタの解像度の表記は紛らわしい数値の一つです。ディスプレイやスキャナの解像度は、大きければ大きいほど高精細になりますが、インクジェットプリンタはこの解像度を上げるだけでは、実際の印刷画質は高精細になりません。

 画質に関わる2番目の要素「インク滴サイズ」(インクドロップサイズ)が、この解像度と比較して遥かに大きいからです。上図でインクドロップサイズは 1pl(ピコリットル)となっています。インクが用紙に吐出したときのドットの大きさは、解像度9600dpi(ドット間隔1/9600インチ)よりかなり大きいのです。
 具体的には、直径12.4μmの球体のインク滴を、横2.6μm・縦10.4μmの精度でズラしながら印刷することを意味しています。隣接するドットは幾重にも重なりあって塗りつぶされるので、9600dpi や2400dpi という解像度はほぼ限界に来ているようです。
(注)1pl の大きさ:1辺10μm(=0.01mm)の立方体、直径12.4μmの球体に相当
   解像度9600dpi のドット間隔:2.6μm、2400dpi のドット間隔:10.4μm

 次に「インク」の色と材料についてです。MG6230機では、染料のC(シアン)・M(マゼンタ)・Y(イエロー)・BK(ブラック)・GY(グレイ)と 顔料のBK(ブラック)の6色です。染料は写真の印刷用に、顔料は文字の印刷用にと使い分けています。
 プリンタは黒や灰色を表現するのにCMYを混ぜて作ることができますが、BK(ブラック)はインク量を節約し黒をくっきり出すために、GY(グレイ)は彩度の低い色味を出すために使うようです。

<光と絵の具の三原色>
 テレビやディスプレイなどは、「光の三原色」と呼ばれる赤(R)・緑(G)・青(B)の3色の組み合わせでさまざまな色を表現します。この3色を混ぜると白色になります。これに対してプリンタのインクや絵の具などは、シアン(C)・マゼンタ(M)・イエロー(Y)の3色でさまざまな色を表現します。これを「絵の具の三原色」と呼びます。
 光の三原色と絵の具の三原色 の様子を下図に示します。双方の三原色は表裏一体の関係にあることが解ります。ただ、実際のインクジェットプリンタでは、絵の具の三原色CMYに黒(今後はblacKのKで表します)を追加し、CMYKの4色がプリンタの基本色になります。
 私は子供の頃に、絵の具の三原色は赤・青・黄と習った記憶がありますが、これは少し間違いのようです。絵の具はヘタに混ぜると濁ってしまうことも解ります。

 さて、インクジェットプリンタはCMYK 4色それぞれのノズルからインクを吐出します。1つのノズル(1ドット)で1色しか表現できません。このようにプリンタの出力はCMYKデータであるのに対して、プリンタへ入力する画像データはRGBデータです。
 プリンタはこのRGB→CMYKのデータ変換もしなければなりません。このRGB→CMYK変換の制御はプリンタのドライバが行ます。このときディスプレイ上の色と印刷された出力の色合いにズレが生じますが、これをできるだけ一致させることもドライバの大事な仕事です。

<RGB側から見たインクジェットプリンタの解像度>
 今まで見てきたように、インクジェットプリンタは「シアン・マゼンタ・イエロー・黒 (CMYK)」の4色のノズルで、隣接するドットを幾重にも重なりあって塗りつぶして印刷します。
 これに対して写真などの「赤・緑・青(RGB)」画像データは、1ドットでどんな色でも表現できます。つまり、写真の RGB 画像データ1ドット分の色を、プリンタの CMYK 画像は複数ドットの集まりで表現します。
 つまり、写真のRGBデータの1ドットが、プリンタのCMYKの複数ドットに対応しているので、プリンタのカタログの解像度はそのままRGB側から見たプリンタの実効解像度にはなりません。実は、RGB側から見たプリンタの実効解像度「350dpi」程度ぐらいですが、詳しい説明は「インクジェットプリンタの印刷能力」のページを参照してください。

<インクジェットプリンタのドライバの設定>
 下図はCanon MG6230のドライバの設定画面です。プリンタで印刷するときに必ず出てくる画面ですが、ここでは写真をきれいに印刷することを念頭に設定を考えてみます。下記画面の赤枠で囲んだ3つの項目が、写真を印刷するための必須設定項目になります。

用紙の種類
 写真の印刷には写真印刷用に作られた用紙を指定しますが、写真用紙には多くの種類が用意されています。
印刷品質
 MG6230では「きれい」「標準」「速い」の3つがあり、この印刷品質の設定に応じてプリンタの印刷能力、すなわち解像度が変わります。メーカーは公表していませんが、RGB解像度はおよそ次の値ぐらいになるはずです。
  「きれい→350dpi」「標準→220dpi」「速い→180dpi」
 写真印刷では「きれい」に設定します。デフォルト値の「標準」では、プリンタはフル能力を出しません。一般の文字印刷はデフォルトの「標準」で印刷されます。必要以上の「印刷品質」を設定しても、印刷時間とインク量を無駄づかいするだけです。
出力用紙サイズ
 ここでは用紙サイズをL版(8.9×12.7cm)としてみます。



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