<IT情報・身近な電気のなぜ?編> IT情報TOPヘ

PCの電源アダプタは 100V-240Vで使用可

(2021年11月08日)

 現代の技術を電気面からみると、まさにエレクトロニクスの時代です。その基幹部品はトランジスタであり、まずラジオ・テレビ・ステレオなど主に家電製品に使われ始めて、今ではPCやスマホなども生活必需品になりました。これらは電気の世界では「弱電」の分野です。弱電とはちょっと古い表現ですが、エネルギーの小さい電気というぐらいの意味です。
 これに対して大きな電力パワーを扱う「強電」の分野にも、エレクトロニクスの技術が適用される時代がやってきました。今回は手始めに小さく軽量になったPCやスマホの電源アダプタの仕組みを学び、AC100V-240Vと広い電圧で使用可能なわけを考えます。

<トランス式直流出力回路>
 交流(AC)100Vから直流(DC)を出す回路を作ってみます。その古典的な方法は下図のように、AC電圧をトランス(変圧器)で変圧~ダイオードで整流~コンデンサで平滑します。トランスとはAC電圧を上げたり下げたりする機器で、その電圧は1次側と2次側の巻線数の比で決まります。巻線数の比を100:10にして、1次側にAC100Vをかけると2次側はAC10Vになります。
 下図の回路でトランスの1次側にAC100Vをかけるとします。2次側のAC10Vをダイオードで整流~コンデンサで平滑すると、DC電圧はACの波高値、すなわち約DC14Vほどになります。半導体がパワーの世界に現れるまでは、AC100Vから任意のDC電圧を得る手段はこのトランスによるのが唯一の方法でした。

 さて、一般の電気部品はその周波数を高くすると寸法が小さくなる、という性質というか自然法則があります。上図のAC電源の周波数は50/60Hzと低いですから、トランスやコンデンサなどの部品は寸法が大きくなり、従って完成品の寸法は大きく重く価格も高くなってしまいます。

<スイッチング式直流出力回路>
 ならば、トランスの周波数を高くして上記と同じ出力パワーの電源を作ってみましょう。下図のようにAC100Vをいきなりダイオードで整流~コンデンサで平滑してDCを作ります。平滑したDC電圧はAC電圧の波高値、すなわち約DC140Vほどになります。
 次にこのDC出力にトランスの1次側巻線と半導体のスイッチング素子をつなぎ、これを高速でON/OFFします。するとトランスの1次側に高周波のパルス電流が流れ、その2次側には巻数比に応じたパルス電圧が発生します。その後 ダイオードで整流~コンデンサで平滑すればDC電圧が得られます。トランスの1次2次の巻数比とスイッチング素子のON/OFFの時間を調整することで、DC出力電圧は任意の値にできます。

 このスイッチング方式ではON/OFFの周波数が高くなるので、トランスの鉄心に特別な材料を使い、スイッチング素子とその制御回路なども要るので構成がかなり複雑になりますが、これで完成品の寸法は大幅に小さくなり価格も安くなります。こうして作った電源を「スイッチング電源」といいます。

<実際のスイッチング電源回路>
 下図は加美電子工業の資料を参考にしました。スイッチング電源をより詳しい電子回路に展開したもので、主要部品はスイッチング素子とスイッチングトランスです。スイッチング素子の制御回路には、出力電圧を一定に保つ出力検出とフィードバック、安全確保のための過電流&過電圧検出などがあり、交流電源へ出るノイズを軽減するノイズフィルタも必須部品です。
 スイッチングトランスは高周波のパルス電流を流すので、鉄芯には鉄損失が小さく高透磁率のフェライトコアを使います。入力電圧が変動する場合でも、スイッチング素子でパルス幅を調整することで容易に安定した出力電圧に保つことができます。そのスイッチング周波数は小さ過ぎると可聴域(20kHz)に入り、トランスにコイル鳴きが発生して使いものになりません。一般には30kHz(min)~110kHz(max) ぐらいがいいようです。

 スイッチング素子は扱う電圧や電流が大きいパワートランジスタを使います。このパワートランジスタの出現こそが、昨今のパワーエレクトロニクスの世界を開いたのです。パワートランジスタはMOS型FET構造を採用した「MOSFET」と、バイポーラ構造を採用した「IGBT」の2つがあります。
 MOSFET はMOS型電界効果トランジスタで、スマホやPCの電源アダプタなどの小型の機器に使います。IGBT は絶縁ゲート型バイポーラトランジスタで、主として大電力用途のエヤコン・電気自動車・電車などのモータ駆動に使います。

<AC100V-240V可のACアダプタ>
 世界各国の電源コンセントの電圧は、交流(AC)100Vから240Vぐらいまでさまざまです。こんな電圧事情を踏まえて、最近のスマホの充電アダプタやPCのACアダプタは、電圧AC100V-240Vで使用可となっています。外国へ出張や旅行に行くときにスマホやPCのACアダプタを、そのまま外国のコンセント差し込んで使える便利な世の中になりました。下図は私のFujitsuノートPCのACアダプタの写真です。
 このACアダプタは寸法が小さく、かつ入力電圧が2倍以上も違っても、なぜ壊れずに使えるのでしょうか? ちょっと不思議に思えるこの仕組みをみていきます。

 入力電圧幅が2倍ほどと大きいだけで、考え方は前項のスイッチング電源と全く同じです。ただ、スイッチングトランスの設計は200Vぐらいにしておきます。最終出力電圧を一定にするフィードバック回路の存在もミソです。こうしてできたACアダプタにAC200VAC100Vを加えると、いずれの場合も最終出力電圧は勝手に、例えばDC10Vになります。DC出力電圧が一定になるようにスイッチング素子のON/OFF時間が自動的に変化するのです。
 その様子をON/OFF時間のデューティで例示してみていきましょう。入力にAC200Vを加えたときは、ON時間は20%OFF時間は80%になり、平滑すれば出力はDC10Vになります。AC100Vを加えるとON時間は40%OFF時間は60%になり、平滑すれば出力は同じくDC10Vになります。
 PCACアダプタなどパワーの小さい機器は使用電圧の変化に強い、というか電圧変化の影響は小さいという特徴もあります。こうして入力電圧がAC100V240Vと大きく変化しても、出力電圧をDC10Vなど一定に保ち、かつ寸法の小さいACアダプタになるのです。


ページ
トップ